アホな息子が手に負えないなと感じたときに読む厳選漫画:『ヴィンランド・サガ』
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最終更新日:2014/06/16
書評
『ヴィンランド・サガ』(既刊14巻:月刊アフタヌーン講談社連載中)
幸村 誠(著)
これはヴァイキングの物語である。「ヴィンランド・サガ」という題名を見た時、「サガ」の部分から角川スニーカー文庫やハヤカワ文庫のようなファンタジーを想定していた。しかし、内容的には、ワンピース的な海賊ワクワク冒険物語ではなく、アイスランドの古典を元に紀元1000年頃のアイスランド、デンマーク、北イングランドを舞台とした北海の歴史物語である。
北海の歴史というと歴史の雄であるギリシア・ローマやエジプト、中国などと比べ古さや規模において地味である。世界史の授業でもヴァイキングについて覚えるべきことは非常に少なかった。イギリス史の一部としてほとんど歴史的な業績を知らず、デーン人やクヌート王という単語をわずかに記憶しているくらいである。
ところが、改めて知ることとなった紀元1000年の北海はそんなちっぽけな時代では決してない。新大陸発見という歴史における最大級のイベントを大航海時代を遡ること500年前に先取りしていたという極めて重要な時代なのである。題材からしてロマンが漂うではないか。
また、今回も漫画という表現手法の射程の広さを改めて感じさせられた。漫画の特徴はそのシーンの雰囲気や空気を絵によって一発で表現させられることにある。今回で言えば、アイスランドの寒さやウェールズ地方の山がちな風土、デーン人の出で立ちなどがそれにあたる。言葉だけではよく分からないものが、絵が入ることによって非常によく分かり共感や深い理解につながるのである。やはり、歴史は漫画で始めるべし、である。
本作は既刊14巻で2014年6月現在も連載中である。この物語は、主人公である青年トルフィンがデーン人の傭兵団に属しフランク族の戦争に参加することから始まる。その後2巻までを通して、トルフィンがこのような生活を送るに至った経緯が振り返って描かれる。幼いトルフィンはもともと故郷のアイスランドで家族とともに生活をしていた。その厳しくも穏やかな日々が父の死によって終わる。
3巻から8巻は、再び青春期のトルフィンに時間が戻る。父の仇でありデーン人の傭兵団の首領であるアシェラッドを倒すべく、あえて彼の集団と行動を共にし仇討ちの機会を狙い続ける。それと同時に、デーン人の王となるクヌートがデンマークから北イングランドにまたがる北海帝国を築く、という時代の流れに関わってゆく。最後にはクヌートが王となり仇であるアシェラッドは死に、トルフィンは奴隷に身を落として幕を閉じる。
9巻から14巻は奴隷となり人生に悩むトルフィンが農場での生活や人との交流、そして農場を巻き込んだ戦争を通して人生目標に開眼していく様子が描かれる。最終的には、ある境地に至ったトルフィンが農場仲間やグリーンランド人のレイフ・エイリクソンと共にヴィンランドを目指すことになる。
ヴィンランド・サガ読了後はこの時代やこの地域に関する好奇心を大いに刺激される。「ランス・オ・メドー」というカナダのニューファンドランド島にある遺跡や、アイスランド人がアルシングという世界最古の近代議会を採用したこと、現代アイスランド語が古代アイスランド語からあまり変化しておらず言語学的にも貴重な特徴を有していることなど、あまり馴染みのない北方の小さな島が人類史における重要な位置をしめていることを知り、世界の広さと面白さを再認識するのである。
ところで、作者の幸村誠には『プラネテス』という近未来の宇宙を描いた作品がある。スペースデブリという宇宙に漂う人工物の残骸を回収する仕事に従事しつつ木星を目指すという若者の物語であり、絵柄はクセがなく大変読みやすい。この作品では神や愛をメインテーマとして扱っており、ヴィンランドサガにも受け継がれている。エネルギーを持て余し暴れまくる男児の親にとっては、自分の力を超えた圧倒的な存在を前にしたときの無力感や苛立ちに光をあてる作品として合わせて読んでおきたい。
あぁ、この子も大きくなったらヴァイキングのように雄飛して行くのね、と微笑ましく思える度:★★★★★
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