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クルーグマンの「流動性の罠」論文から日銀黒田総裁の覚悟を思う

公開日: : 最終更新日:2014/11/17 学習

 クルーグマンの1998年の論文を山形浩生先生が相変わらず名訳?でぶっ放してくれているので、日銀がバズーカ2を発射したこの時期に、改めて、読んでおこうと思い読みました。

復活だぁっ! 日本の不況と流動性トラップの逆襲 ポール・クルーグマン 1998年
http://cruel.org/krugman/krugback.pdf

 金利がゼロになるともう下げられないから量的緩和でベースマネーを増やしてマネーサプライを増やそう、というのはわかる。そしてマネーサプライを増やすとインフレするというのも感覚的に想像がつく。そう習った気もする。貨幣数量説っていったかな。つまり物の量を変えずにお金の量を倍にしたら割り算で価格は倍になるってことだ。

貨幣数量説  Wikiより
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/貨幣数量説

 もちろん、マネーサプライが増えるとインフレすると言い切ってしまうのはちょっと短絡的すぎるらしい。実際の世の中でお金を増やす場合には、一瞬にしてお金は倍にならないし、物価も倍にならずに色々と動きながら変わるでしょう、ということ。そりゃそうだよね。それでもマネーサプライを増やすとインフレするというのは経済学者の間では広く一致した意見だそうだ。P5。(仮に本当にお金をばらまくとか、預金残高を増やすとどうなるのかな)

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 ところが1998年の時にはベースマネーを増やしてもマネーサプライが拡大しなかった。原因は銀行の不良債権が問題であるとか言われていた。いくら量的緩和をしても銀行が信用創造しなければ、つまり貸出を増やさなければマネーサプライは増えない。そういや不良債権という言葉は当時よく聞いた。「不良債権処理」なんか流行語大賞だったんじゃないか?

 しかし、クルーグマンがここで言わんとしているのは、問題の本質は不良債権うんぬんではなくて「流動性の罠」に陥ると銀行が健全でもマネーサプライが拡大しない、ということだ。P19で結論している。むしろ流動性の罠にハマったら、ベースマネーの増加はマネーサプライの減少すらまねくらしい。ほう。流動性の罠にハマったときの資産や投資に関する合理的な判断がマネーサプライの増加につながらないとしている。学問としての経済学の面白いところだね。

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 さてその後P20では、合理的な意思決定においても発生してしまう「流動性の罠」の根本的な問題は「信用」であるとする。買った方がいいのか、貯金したほうがいいのか、投資したほうがいいのかという検討も将来の不確実な見込みでもって判断するわけだから、いかに将来の約束が信用できるかにかかっているということだろう。

 で、流動性の罠に陥っている時の対策について話は進むのだが、まず一般的に効くと思われている財政出動が怪しいとされるのはなかなか驚きだ。需要が減っているから政府が金を使って消費しましょう金を回しましょうというのは納得できる話だし、広く使われている。大恐慌のときも大規模な公共事業があったというし、ケインズ政策といって肯定されていたんじゃないの?日本政府の1000兆円の赤字に対して、仕方がないと弁護するときによく使ったよ。

 ところが大恐慌からの回復は財政出動による支えではなくてインフレによる実質的な金利がマイナスになったことだという。インフレしちゃうと同じお金でも買えるものが少なくなくなるぞ直ぐに買おう、というわけだ。財政は余り効かないのか。流動性の罠という「泥沼」にはまりこんだ経済を引き上げるには、限定的なの財政パンチではダメらしい。ダメとは言っていないけど。唯一効きそうなのが「管理インフレ」だそうだ。インフレターゲットのことだ。

福本 伸行 賭博黙示録カイジ  講談社 第2巻 P92

福本 伸行 賭博黙示録カイジ 講談社 第2巻 P92

 インフレターゲットとはインフレ期待をかもしだしてインフレしちゃうと皆に信じこませる政策だ。いわゆる金融政策というと「金利」とか「量的緩和」のように数値で説明できるものだが、「期待」というのはあやふやだよね。そこで、P21からはインフレ期待という方法が特段の問題でもないと箇条書きで説明している。私のような経済素人はしらないが、専門的には「期待形成」というのは広く認められた考え方だそうだ。

 まぁ、デフレによって経済や社会が傷つくことを20年も体験しているとインフレなんて全然いいことなんだろうと思う。今の日銀のインフレターゲットもこの説明から肯定される。そういや、最近(2014年11月)、クルーグマンが来日して安部総理に日銀の政策を支持すると言ったニュースを見たね。

クルーグマン教授が安倍首相と会談、消費増税反対を表明  ロイター 2014年11月6日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0IQ0LL20141106

 さてここで、昨年(2013年1月)になってようやく発動された黒田総裁のインフレターゲットはその実効性の有無もそうだけど、ではなぜ今までやらなかったのかという疑問がわく。この論文が1998年に書かれていてそれから15年経ってようやくですよ。

 実は日本銀行法という法律があって、その第2条に「物価の安定」がその理念だと書いてある。この文言が引っかかっていたという話もあるらしい。日銀がインフレさせようとすることは物価の安定に反していないのか?と。

「物価の安定」に対する考え方 日本銀行 2000年10月
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2000/data/k001013a.pdf

 日本はなぜインフレターゲットを採用してこなかったのか。富国生命のアナリストレポートがわかりやすい。大きな理由としては、インフレターゲットをデフレ脱却に利用した例がなく、効果や波及経緯などが理論的に分かっていないため、だそうだ。ちなみにレポートには日付をつけるようにして欲しい、富国生命さん。

インフレターゲットを巡る議論  富国生命 2011年?
http://www.fukoku-life.co.jp/economy/report/download/analyst_VOL211.pdf

 ただし、以前から日銀は微妙な言い回しで「物価の安定」とされるインフレ水準について言っていて、それは1%を中心に0%から2%とのこと。これもインフレターゲットと言えなくもない。ただ、法的な拘束力はない。そうだったらいいのにね♪、という程度だろう。福井総裁のときに発動されました。

新たな金融政策運営の枠組みの導入について  日本銀行 2006年3月9日
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2006/k060309b.htm/

 そしてここで使われた「中長期的な物価安定の理解」というイミフなインフレ水準が6年後には、白川総裁によって「中長期的な物価安定の目途」という言い方で少し強められたりなんかしている。

「中長期的な物価安定の目処」について  日本銀行 2012年2月14日
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/k120214b.pdf

できる大人のモノの言い方大全

 話を戻して、ではどうやってインフレ期待を高めるのかというと、「あらゆることをする」と言うだけで良いらしい。???。金利を上げないと言うだけでいいらしい。???。インフレターゲットを明示するだけでいいらしい。???。それは信用されれば合理的な判断の元でインフレは起こるという。本当かよ。クルーグマンはP37でそう言っている。

 ではどのくらいのインフレをどのくらいの期間やると良いのかという点は少々難しい。P38とP39でザックリと4%を15年と言っている。クルーグマンは「この目標はそのまままじめに受け取らないでほしい」と言っていて、これをたたき台に研究が必要という見かただ。

 いろいろ検討した結果なのだろうが、日銀の設定した目標は2%だ。全然足らないじゃん。なんだか中途半端で心配だよ。それに15年て、まさしくこの論文が発表された1998年から実施までに15年かかっているんですけど。。。15年研究した結果が2%なのかと思うとげんなりする。なんだったんだよこの15年は。

「物価安定の目標」と「期限を定めない資産買入れ方式」の導入について  日本銀行 2013年1月22日
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2013/k130122a.pdf

 でも、あらゆることをすると言ったバズーカを2回も発射して金融緩和をしているけど、初めから言っているように流動性の罠にはまっているときの緩和には意味がないのでは?インフレへの信頼性を高めるためなのか、円安にして輸入コストを上げることで消費財の物価を上げようということなのか。確かに、クルーグマンの予想通り為替は劇落ちしてP39で言っている20%〜25%に向けてまっしぐら。いや、安部総理就任からは既に50%落ちているんだった。

 もう少し庶民的で感覚的なことを言わせてもらうと、2%程度の「値引き」では消費欲はわかないよ。この20年、年金問題とか政治のドタバタとか少子高齢化とか情報化社会とか、将来に対する不確実さと不安感を煽るだけあおってきたわけだ。国家に対してもそれほど期待などしていないし、少子化で人口減の社会が経済の拡大につながるとは思えなくて、我が身はわが身でとなっているのではないか。今ある100円が1年後に98円に目減りするとしても、来年のためにとっておくんじゃないかな。5年後に90円になったとしても取っておくんじゃないかな。

 4%ずつインフレして5年後に約20%程価値がなくなると思えば使うかもしれない。それでも消費に回すんじゃなくて別の資産に替えるだけじゃないのかな。そうするとインフレではなくて、ただの資産バブルかね。

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 今回はひとまずここで終わり。インフレターゲットを決める際の「GDPギャップ」とは何かとか、GDPギャップが生まれるワケとか、潜在GDPの算出のしかたとか、その中にあるTFPというGDP成長に寄与している技術革新の部分とか、そうか人口が減少してもTFPが増えれば潜在GDPは増加するのかとか、そもそもデフレとは何かとか、デフレとGDPギャップの関係とか、気になることは他にも出てきてしまったので、引き続き学習して参ります。

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