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子供が寝てふっと息抜きしたいときに読む厳選漫画:『へうげもの』

公開日: : 最終更新日:2014/06/03 書評

『へうげもの(既刊18巻:講談社週刊モーニング連載中)
山田 芳裕(著)

 これもまた絵にくせがありモーニングで何度も目にしたにもかかわらず読んでいなかった作品の一つ。日本の戦国時代を描くに当たり信長でも秀吉でも家康でもなく「古田織部」というマイナーな人物を主人公とし、茶の湯や茶道具を中心に当時の文化や美の変遷を描く。歴史物であり更に文化物ということで絶対に地味なんだろうなぁという予想を覆し、「美」や「表現」に笑いと興奮をもたらす異作である。

 元々、著者の山田 芳裕氏は『デカスロン』という10種競技を題材にしたスポーツへんちくりん漫画を描いており、ニッチで地味な対象を画力というか構図というか見開き力というか、とにかくそういう独特な画法によってエキサイティングにする技術に長けている。今回の対象も彼の画法なくしては単なる文学作品で終わりかねず、まさしく氏の面目躍如、唯一無二の作品といえよう。

 歴史物かつ文化物であるため「強敵のインフレーション」など収拾に困るような冗長な展開はない。主人公が独自の美意識を確立することが全体を通したテーマであり、主人公の成長に則した展開は安定感がある。師であり乗り越えるべき巨大な壁である「千利休」が早々に登場し、信長や秀吉と合わせて3者3様の価値観のベクトルに主人公が右往左往する姿は、子育てに疲れこのままでいいのだろうかと思い悩む自分にひとときの安らぎを与えてくれる。また、さすがに歴史物であり文化物という題材のため読了後は茶の湯や骨董に対する視野が開け、満足感が大きい。

 本作は既刊18巻であり、2014年5月現在も連載中である。1巻から6巻は織田信長の近習として使いに走る古田左介が、天下の名品に触れつつ数寄者として箔をつけてゆく過程が描かれる。しかし、利休に師事し「ワビ」を追及した結果、行き過ぎた解釈により新しい屋敷の建築や秀吉主催の大茶会で自分のセンスを利休に一蹴される。6巻から12巻では、己の未熟を悟った後に新たな美観に向けて踏み出し、利休の死や朝鮮行きを経て、「織部好み」となる「乙なもの」を追求する。最後には伏見城の普請や秀吉の死に際し美意識や哲学を披瀝し数寄者としての完成を見せる。13巻から15巻は隠居し数寄者として闊達に過ごしつつ、幅広い交友関係や卓越した機微によりいよいよ「ひょうげもの」として佳境に入る。

 本作は歴史物かつ文化物であるため子供にも読ませたい。特に戦闘や権力に興味がなく結果的に既存の歴史物を苦手とする層(女児ややさしい男子を想定)にむくのではないだろうか。多少難解でせりふ回しが戦国時代的であるため小学校の高学年以上が対象と思われる。無論、これまで戦国時代に興味がなく夫に馬鹿にされてきた奥様方にもお勧めで、むしろ新しい切り口で戦国時代を俯瞰できることから知識の偏りをせせら笑うことができる。

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